「あ…れ…?」
不意に誰が漏らしたか。その場にいた誰もが疑問にする。正解に辿りついたのは、ピノただ1人だった。
「た、たまお姉ちゃん!」
そう…夜桜はまだ息を引き取っていなかったのだ。場は騒然とするも、ハッとした神楽が慌てて救急箱を取りに向かう。
「ピ…ノ…ちゃん…?」
「そ、そうですわ!しっかりしてください!」
気を強く保て、口を開くな、そんな声援が無造作に飛び交う。だが夜桜の耳には届かない。気が動転していたのだろう。虚ろげな目で脈絡のない言葉をひたすらに繰り返していたのだが。
「み、みなさん!お静かに…」
喧しい部屋の中、夜桜は全てを話そうとした。しかし朦朧とする意識の中、彼女が告げたのはたったの一言。
「はん…にん…は…」
震える手を差し伸べ、ある方向を指で示す。そしてそのまま…夜桜は還らぬ人となった。
「お姉ちゃん!しっかりしてよ!お姉ちゃん!」
全てに失望したように泣きくれる。だが後ろの者達は、別の意味で絶望を顔に浮かべていた。涙を拭いて顔を上げ、ピノは改めて彼女の指差した方を見た。
「皆さん…ごめんなさい遅れて…!」
神楽が慌てて帰ってきた時、彼女は思わずたじろいだ。ピノら全員が自分の方を畏怖した表情で見つめ返したからだ。それでも直ぐに慌てて部屋の中に入る。そして…全てを理解し、恐怖で体を震わせた。
この部屋の壁には、木の名札が飾られていた。アイドル部全員分の名前が揃っていた。そして夜桜が指差していた先には、1枚の名札が飾られており、神楽すずの名が彫られていた。
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他でもない被害者の言葉だったが、それでも信じない者がいた。もこ田、ヤマト、金剛の3人は「神楽すずの無実を証明し隊」を結成し、独自の調査を始めていた。彼女は無実だと信じた執念の捜査で、そのことに最初に気が付いたのはヤマトだった。
「ね、ねぇ2人とも!」
3人は夜桜の倒れていた部屋にいた。腕をパタパタ振る彼女の指差した先には、あの神楽すずの名札があった。此処でようやく2人とも気が付いた。名札に不自然な…取り外した痕があったのだ。
「これって…つまり…!」
そう。なんて事のない有り触れたトリック。犯人は予め自分と神楽の名札を入れ替えていたのだ。罪をなすりつける為に。夜桜は非常に頭が良く、きっと名札の並び方も全て頭に入れていたのだろう。それを逆利用したわけだ。となれば今からやることは1つ。他に取り外した痕がある名札がないか探せば良い。
そこに気が付いてからは早かった。そして、全ての名札を調べた結果、他に痕があった名札は、たったの1枚だけだったのである。