「ねぇなとちゃん。何か隠してない?」そう語りかけてきたのは花京院。今日は女子会と称したカラオケ大会に来ており、アイドル部所属の女子生徒7人が参加していた。「…突然どうしたんですか?」持っていたスマホをポケットに滑り込ませ、冷静を保ちつつ無表情のまま返す。しかし内心は焦っていた。というもの彼女…八重沢は、先程まで電話をしていたのだ。因みに相手は同じ部活のメンバーで今日此処に居ない北上からである。「たまには仕事を変わってあげたい。だから他の仲間達をまた引き付けておいて欲しい」という依頼の、終了報告であった。これでもう変に気を遣わずにカラオケを楽しめる…そう思った矢先だ。「ずっと考え事してるみたいだったし、殆ど歌ってないよね?」鋭い。相変わらずこの娘は周りをよく見ている。さてどういう言い訳をしようか…という考えに至る前に、安堵が彼女の胸を駆けていた。どうやら電話内容を聞かれていたわけではないらしい。なら次に口にする言葉は決まっている。「すみません、実はおばあちゃんが体調不良で。ほら最近怖いじゃないですか、感染症。それで気が気じゃなくて…。でもただの風邪だーって、今の電話で言われて」なんて在り来たりな嘘を吐く。普段から風紀がどうと言っている自分が嘘を吐く。隠し事を続ける。…少し指が震えてしまうがグッと堪え、仲間の為の嘘だと自分に言い聞かせる。「あ、そうなの!?良かったねー!」自他ともに認める、カワイイ笑顔を振りまく花京院。それに釣られるように笑みをこぼし、2人は他の仲間たちが向かう場所に歩みを進める…はずだった。「…あのさぁ。なとちゃん」階段に片足を掛けた状態で立ち止まる。距離は取っていたから、彼女の背中にボフッと顔を突っ込むという漫画みたいなことは起きず、数歩後ろの位置で彼女に生返事だけすると、ギョロっとした眼で振り返って見つめ返し、口元をニヤリとさせた。「何か嫌なことでもあったら、今度からはちゃーんとちえり達に相談することっ!ちえりだってもう同じ轍は踏みたくないの!それにー、ちえりはなとちゃんの事も大切な仲間だと思ってるしっ!」そう告げるとニシシといった笑いを見せ、腕や胴を少しくねらせる。まるで楽しい遊園地に来た時の子どものように。もし従業員と呼ばれる人達がこれを見たら、卒倒してしまうのだろうか…なんて些細なことを考えながら、呆れたような態度で「お互い様ですよ…」と返しつつ、2人で階段を上り始める。元の部屋に戻るまでの間、次は何を歌おうとか何を頼もうだとか、八重沢はそんなことばかり考えてしまっていた。その為に八重沢は、直ぐ近くにいたはずの彼女の呟きに、耳を傾けることが出来なかった。「全くなとちゃんは…嘘を吐くのが下手くそなんだからー。すっごく気になるけど…折角だし余計な詮索はしないであげるー。だってなとちゃんのことも、とーっても大事な『なかま』だしね…ふふっ♪」
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