『ほら、口開けて』
「あーん…」
『すまんな…仕事が長引かなけりゃ、もっと早く来れたんだが』
『昨日の夜と比べて、多少は楽になったか?』
「…あんまり変わんないかも」
『そうか…この時期の風邪はしつこいらしいからな』
『食欲はあんまり無いだろうけど、栄養のある食事は摂ったほうがいいぞ』
「うん…」
『と言っても、一人暮らしじゃそれも難しいよな…。俺も一人暮らしだからよく分かるよ』
『身の回りの事、ちょっとやっておくからさ。薬飲んだら気にしないで寝ててくれ』
『(ゴミ出しも完了、と。まあこんなところかな)』
『(って、いつの間にこんな時間に…。雛菜の為とはいえ、長居しすぎたな)』
『雛菜、俺はそろそろ…』
「プロデューサー」
『ん?』
「雛菜の風邪…治るかな」
『え…ど、どうした?』
「雛菜ね…昨日からずっと辛くて、今もまだ辛くて、苦しくて…。もしかしたら、もう治らないんじゃないかって」
『まさか、そんな…』
「もう、楽しい事も出来ないんじゃないかって。もう透先輩にも、小糸ちゃんにも、円香先輩にも…プロデューサーにも、このまま会えなくなっちゃうんじゃないかなって」
「このまま一人で、ベッドの上で…。ちょっとだけ、不安になっちゃって」
『雛菜、そんな事は…』
『…』
『不安、だよな』
『大学も違うから、3人といられる時間が減ったし…そもそも俺も雛菜も忙しくなったから、なかなか肩の力を抜いて会話する機会も確保出来ないし…』
「…」
『そんな中風邪引いて、熱に浮かされて、誰とも会えないで家で一人で寝込んでたら…俺だって不安になるよ』
『…すまん、こんな時に気の利いた事が言えたら良かったんだが』
「…ううん。けほ、けほ…」
『雛菜…でもさ』
『風邪は治る、絶対に。治るまで毎日、俺が家に来てやるから。今日は白桃のゼリーだったろ? 次に会う時は、さくらんぼのやつを持って来るよ』
『…俺にはそんな事しか出来ないけどさ、それが雛菜を苦しみから助けられるのなら』
「プロデューサー…」
『今はただ、前向きに考えてくれ。明日の事は心配しなくていい。俺がそれを全力でサポートするから、さ』
『風邪が治ったら色んなワガママ、聞いてやるよ。楽しい事、いっぱいしようじゃないか』
「…プロデューサー」
「ありがとう」
『はは、お礼は風邪を治してからな』
「…一つだけ、今ワガママ言ってもいい?」
『ん…何だ?』
「雛菜が眠れるまで…今日はそばにいててほしいな」
「…いい?」
『ああ、お安い御用さ』
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