「今夜ウチ誰もいないの」
結月が紲星にそう言ったのは太陽がずいぶん西に傾いた時分だった。
結月は常日頃から紲星ともっと親密になりたいと考えており他に誰もいない家にふたりきりになれるというシチュエーションをみすみす無駄にしたくなかった。
にもかかわらず紲星を誘うのにこんなにも時間が掛かったのは「なあ、スケベしようや」の一言をどんな厚さのどんな味のオブラードにくるめばいいのか分かりかねていたからである。
自分が紲星を求めていることを直接的な表現で口にすることはなくなおかつ紲星には伝わる、そんな文言がベストであるが紲星は自分と、いや、世間一般と比べてもちょっとずれているのだ、[性欲]は人間の三大欲求の一つだが三大欲求と言えば[米欲][パン欲][麺欲]であると言って憚らない少女が相手なのだから悩みもするというものである。
そこであえてオーソドックスな文言を選んだのである。
紲星も小説や漫画・テレビなどで一度は聞いたことがありそうな言葉を選ぶことで、全く伝わらないということだけは無いだろうという考えに至ったからであり「じゃあふたりきりのディナーができますね」などという答えは少々予想外であった。
だが紲星が家に来るところまでは確定したのだ、何とか紲星を〔そういう〕気分にさせることが出来ればあるいは、まだ諦めるのは早い。
一方紲星はすっかり〔そういう〕つもりであった。
ふたりでゆかりごはんを食べてそのあと「こっちのゆかりも食べたいな」などと言いつつ押し倒す気満々であった。
だが帰り道でゆかりを買う際にその満々だった気分が大きく揺らぐことになるとは思いもよらなかった、ゆかりの隣にあかりが売っているのを見たとき紲星に悪魔がささやいたのだ。
【ふたりであかりごはんを食べてそのあと「こっちのあかりも食べてみない」などと言って誘い受けなんてどうよ?】
気持ちが大きく揺らぐ紲星に天使の声が聞こえる
〖いや、そもそもふりかけにきっかけを求めたりせずに「スケベしようや」って言えばいいじゃない、あんたたちそういう仲でしょうが〗
【イメージ!10代の女の子のイメージ大切にして!】
〖ふりかけをきっかけにやりました。なんて10代の女の子がおるか?〗
【この戯けが!ふりかけをきっかけにやったという前例をここで作っておいて後々夕飯にふりかけが出たらやりたいサインという将来設定が分からんのか】
〖ハァ?やりたくないときふりかけが食べたくなったらどうすんのよ?バカなの?〗
・・・結局どうするべきか決めかねているうちに結月の家についてしまったのだった。