鍵がなくなった。
仕事を始めてから最大の失敗だ。鍵が悪用されれば、あの扉の中の世界がこの現実と混同し全世界を混沌の渦に巻き込むかもしれない。呪術でも魔法でもなんとでも言えばいいが、扉の中の世界では現実とはかけ離れた超次元の力が飽和している。そんな力が現実に解き放たれれば大惨事どころでは済むはずなどない。
鍵の在処を知るものは4人。扉を支配および管理を行っている者。その人から絶対的な信頼を得ていて、時々扉の状態確認を任されている者。扉を物理的な形を保ち続けるために超次元の力を与えているもの。そして現実と扉の中の世界を交渉の橋渡し役として頻繁に行き来をしている私だけだ。私が鍵を落としたのだろうか。いや、フラクタルの紐は自然に解けるほどやわくない。現実の世界で盗まれたのか。いや、現人があの鍵を持っていたとして使いどころがない。なにせこのマントの中に手を入れることさえ三次元世界の人間ができるはずがない。残りの3人が盗んだのか。消去法だとそうなってしまう。
鍵がなくなっている。
少なくとも1週間前にあの人に任されて扉を確認した時に使っていた。この1週間で鍵がなくなったというのか。どちらにしろ大問題である。このことが知られれば真っ先に「今すぐ探しに行け」と言われることが目に見えている。今のうちから探し始めておこうとおもってもまったく検討がつかない。それなら一旦待機しておいてこのことで緊急会議が行われるだろうから報告だけ済ませておこう。
しかし一体だれのミスなのか。そもそもミスなのか。頻繁に鍵を使うあの人が一番怪しいが証拠などないし鍵を悪用されることの危険性は誰よりもわかっているはずだ。
鍵のある場所で気配が感じられなくなった。
常に力を与え続けているのは扉だけでない。それを開けるための鍵にも常に力を与え続けている。その力を与え続けるためには一定の場所におかれていないと不安定な力で不安定な形をしていることになる。形を保つのは力を抜いてから17時間程度しか持たない。そんな時間でなにができる。なにが目的なのかまったくわからない。にしても面倒なことになった。どうせすぐ呼び出しを食らうだろうからすぐに向かう準備でもしとくか。面倒だ。
3人の反応を見るに本当に鍵がなくなったようだ。
あのバカの様子がいつもより変だと思ったから少し頭を覗いてみたら相当大きな問題になっているようだ。あの鍵の在処はさっき聞いたように3人しか知らない。知っているはずがない。3人の頭を覗いてみたが全員よくわかっていないようだ。いや、私がこんなことをするなど容易いことだとわかっているから誰か嘘の情報を意識して私をだまそうとしたのだろうか。それとも3人とも共謀しているのだろうか。わからない。とりあえず緊急招集をかけて大神官に報告するか。