小樽潮風高校硬式野球部。
甲子園出場経験もない、強いとは言えないチームだ。
そんな野球部に所属する1年生の僕は、入部直後から先輩達との経験の差を痛感しながらも、なんとか夏の大会で7番ライトのレギュラーを勝ち取ることができた。
僕は試合に出ていない先輩や同級生の分まで、全力でプレーした。
今年の潮高野球部は快進撃を見せ、初の甲子園出場まであと1勝。学校は大盛り上がりだった。
休み時間にクラスメイトからもたくさん声をかけられた。
その時、僕はある考えが頭をよぎった。
ふとしたきっかけで仲良くなった隣の席の花隈さん。
(花隈さんが応援に来てくれたら、本当に優勝できる気がする…)
「花隈さん。」
僕は隣の席の彼女に声をかけた。彼女は読んでいた本を閉じ、こちらに視線を向ける。
彼女と目が合ったとき、試合前よりも緊張した。
応援に来てほしいとお願いしたいが、もし断られてしまったら。
「次の試合に勝てば初めての甲子園出場が決まるんだけど…」
少しの沈黙を挟み、意を決した僕はこう続けた。
「よかったら、応援に来てくれませんか。
花隈さんが来てくれたら、勝てる気がするんだ。」
すると彼女は微笑みながら答えた。
「言われなくてもいくつもりだったよ。」
僕は全身の力が抜けた。心底嬉しかった。決勝戦はこれからだというのに。
ーーーーー
決勝の相手は名門校。だが潮高野球部は、観客の誰もが予想しなかったであろう善戦を見せ、1点を争う好ゲームとなっていた。
そして9回裏、小樽潮風高校の攻撃。ツーアウトを取られるも、先輩たちが意地を見せ満塁のチャンスを作った。
打順は、7番の僕。
ーこんな場面で回ってきてしまうとは。
打てば逆転サヨナラで甲子園出場。アウトなら試合終了。
今までにない緊張感の中、2ボール2ストライクと追い込まれてしまった。
五球目。低めの球を打ちに行こうとしたとき、花隈さんの声が聞こえた気がした。
「ボール!」
僕のバットは止まっていた。打ちに行っていれば低めに外れる変化球で空振り三振だっただろう。
タイムをかけ打席を外し、深呼吸をした時、応援席が目に入った。
…大きな声で応援してくれている彼女のすがたも。
(今思えば、応援に来てほしいってお願いするときの方が緊張してたっけ。)
焦りや不安は一気に消えた。打席に戻り、投手がモーションに入る。
(ありがとう、花隈さん)
9回裏ツーアウト満塁5対4。大きなうねりを迎えた南北海道予選決勝戦。
潮高のチャンステーマ、モンキーターンが鳴り響く中、運命のラストボール…
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