巫小春、居場所が社務所前から拝殿前になってて、ちょっと小高いところになったんですよ。そうすると何が起きるかって、階段を上る過程で小春さんの足元にも目が行きやすくなって、なんですかそのつま先はっていう感情が生まれたかと思えば、もうちょっと上ると「目が合う」んですよね。そうして参拝すると位置的に右隣に小春さんがいることになって、そうなっちゃうともう、何をお願いしようとしてたかとか緊張で全部吹き飛んでしまいそうですよね。<br>今朝もまさか社務所が開く前からいると思ってなくて、こんなところに小春さんがいるってなったらもう心の準備なんかできてないし、でも小春さんと目が合ってから引き返すのもなんかおかしいし、もうどこを見ればいいのか全く分からなくなっちゃって、それでも俺は毎朝の参拝を欠かさないためにも前を向いてお賽銭を入れるんだけど、小春さんがそんな場所にいるからちょっと見栄張って50円とか入れちゃうんですよね。<br>でも、いつもの小春さんだったら茶化してくるだろうけど、巫女さんのバイトをしている小春さんは微笑みながら、でもちょっとクラスメイトのお願い事とか気になっちゃうんだろうね、「何をお願いしたの?」って。そんなの言えるはずもないのに。しかし50円のお賽銭ってのは割と大金な訳でして、そこまでしてお願い事をするんだからきっと大層なことなんだろうってのは小春さんも気付いてるんだろうね。適当にごまかしたってバレバレだったみたいで、小春さんはちょっとだけいつもの調子を取り戻して悪戯っぽく口元を綻ばせるんだ。でもそれは普段の教室での快活な笑顔とは違う、どこか儚くて、それでいて全てを見透かしているような微笑み。心臓がうるさい。<br>「で、ほんとのところは?」<br>そう言って、小春さんは拝殿に向かって、俺の隣でそっと手を合わせてくれる。やめてくれ。<br>俺はもう、何と返事をしていいのかも分からず、「あ、うん。ありがとう」なんて、しどろもどろの返事しかできない。小春さんと目が合った時から決まっていたんだ。今、ここで想いを伝えたら、きっと"終わり"にできるんだろう。しかし、僕はこの関係に名前を付けることすら怖い。そして、そそくさとその場を離れようと踵を返す。<br>「また学校でね」<br>きっと小春さんは明日も、明後日もここにいるんだろう。僕もまた、欠かさず参拝するんだろう。飲み物がお茶からただの水になったことを少し後悔しつつも、あの時何と答えれば良かったんだろうと逡巡する。冗談めかして世界平和とでも答えればよかったのだろうか。なんだ、たった50円では世界が平和になるどころか僕の心が乱されただけじゃないか。<br><br>使用ソフト: Voisona Talk 小春六花