やれやれ今日は散々だったな、とため息をつきながら帰路をだるそうに少し斜めに視線を落として歩く
レジ袋に入れた寿司のパックがやたらと重い。
前を向いて歩けないのは自分の仕事がうまくいかなかったからじゃない。
バレンタインデー。
街並みが甘ったるい茶色とギラついたピンクのハートばかりで眩しく見えたから
たった24時間の記念日のために店は仰々しくポスターを並べ
人々は二人で1セット、この日ばかりは人間が四つ足のバケモノに見える
チョコレートでなぜそこまで熱くなれるのか
ホワイトデーのお返しが2倍になるのはなぜなのか
くだらない疑問を去年と同じように並べて自分の空想に浸りただ歩いた。
家の前につくとそんなくだらない空想を全部溶かして。
扉に、何もなくても暖かい自分の家に吸い込まれるように入っていった。
そう、いつだってここが自分の天国だ。
「「おかえりなさい、お兄ちゃん」」
そんな声からはココアのような優しいにおいがした気がする
この天国には、なぜかいつもと違って二人の天使がいる
視界が天国に慣れ切って二人を見つめるが
相変わらず状況は掴めない
片方の天使がふわりとこちらにかけてくる
「ほら、ごはん一緒にたべよ?」
テーブルには寿司パックとカップ麺
ふと、二人の天使が私に何かを差し出した
片方はチョコミント、そしてもう片方はピンクのリボンにくるまれた何か
ああ、そうか今日はバレンタインデー
僕だって味わっていいんだ
思う存分堪能していいんだ
「ほら、あーんしてあーん」
「ちょっと!抜け駆けしないでよ!!ほら、あんたも、どっちのチョコを先にもらうのかしら?」
いたずらっぽく笑う彼女
そんな二度とない眩しい光景に頬が裂けるような笑みを浮かべて私は
「お前達が欲しい」
そう、二人の目を覗き込むように言い放った
「いただきます」
真夜中、気が付くと私はスマホを横向きに持って一人で湿ったベットの上に寝ころんでいた
無我夢中にナニかと混ざりあっていたような
極楽に至ったような快感が全身を駆け巡っている
何も覚えていない。
ただ、その日の夜食べた寿司の味は覚えている
その寿司は、確かに、チョコレートの味がしたのだ。
「ごちそうさまでした。」
さあ、FGOのピックアップガチャを回そう
私は無職だった
音素材:Notzan ACT
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