─バイクの二人乗りの映像が欲しいんで、ちょっと撮ってきて下さいよ。
いや無理ですよ、俺自転車だからスピード感も違うし。
─交通量の少ない下りだったら、それっぽくは映るでしょ。
それはカメラの回らないところで坂を登れってことですよね。
広域農道は自転車の通行を想定せず、山肌に沿って遠慮なく起伏している。10%を越える登りにバイクをレンタルでもすればよかったと後悔しながら、学生時代の記憶をよみがえらせていた。
─
原付の免許をとったのは高校2年に上がる春休みのこと。やたらと辺鄙な自宅から通うのに、申請可能な学年になりしだい、通学許可をとったのだ。
学内でバイク通学者は珍しかったから、クラス替えがあってすぐの教室では一時的に注目の存在となって、初めて声をかけてくる相手も多かった。
軽音部のギターボーカルだった彼女も、そんな「バイクの人」に興味を持った一人だった。
1年のときはこちらが一方的に知っていただけの彼女は、クラスメイトになるとまるで旧知の仲のように声をかけてきて、こちらのバイクのことを根掘り葉掘り聞くかと思えば、私もバイクに乗りたいのに親が免許をとらせてくれない、なんて聞いてもないことを話してきた。
しまいには帰りに家まで送ってほしい、なんて無理難題までふっかけてきて、さすがにバイク通学解禁からいきなり停学になりたくないこちらは断るのに苦労した。
それでも4月の連休前に、学校の駐輪場でスクーターの席に座らせてあげた時は、夏休みにバイトして大きなバイクに乗り換えようか、という考えも頭をよぎったものだった。
…彼女とはそれきりだった。
連休中に、バイクに二人乗りする彼女を見た。
コンビニの駐車場ですれ違って、知らない男の背中にしがみつく彼女と目が合ったのだけど、こちらはフルフェイスのヘルメットだったから向こうが認識したかはわからない。
連休明けからは彼女が話しかけてくることはなくなり、こちらから聞く必要もなかった。単にそのあと目撃情報が増えて、相手の男は去年卒業した学校の先輩らしい、と知っただけだ。
─
登り区間が終わって、農道は同じだけの傾斜の下りに反転する。バイク車載のスピードに擬態できるという区間だ。
自然にブレーキに手がかかって、速度を緩めていた。細いロードバイクのタイヤが路面のがたつきを拾いすぎて、恐怖心に負けたのだ。
いまさら失って困るものなんて、もうほとんど残っていないというのに。
原曲: TVアニメ『超くせになりそう』挿入歌
作詞:えんどうてつや / 作曲:坂本洋 / 歌: 白鳥なぎさ (CV: 西村ちなみ)
立ち絵: 旅はんぺんさん(
user/69030572)
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