私とデュオを組む"あかねぐも"さんのために シンセサイザーを使い 作曲・演奏しました
初の試みとして 彼女の音声を取り込んでます
以下は ノンフィクションです
昼のあいだ 季節には不似合いなほど大きな波に心を躍らせていた彼女が
いまはベッドの中で静かな寝息を立てている
クルーザーには寝室がいくつもあるというのに 彼女はわざわざ私が身を横たえていた
キングサイズのベッドにもぐり込んできた
私がまだ起きていると気づかれぬよう息をひそめているうちに
よほどサーフィンに疲れていたのだろう 彼女はほどなく深い眠りへ沈んでいった
私はそっとベッドを抜け出し 彼女の眠りを乱さぬよう音量を絞ったスムースジャズに耳を傾けながら
いくつかの思い出の中を静かにたどっていた
楽器店の最上階で ヴァイオリンを奏でる彼女に出会ったのは
それも いま思えばほんの数年前のことにすぎない
全身に洗い立てのような洗練をまとい
ピアノを試し弾きしていた私に ふいに声をかけてきた
その日は ただ挨拶を交わしただけで別れたけれど
二度目に会ったとき 私は行きつけの喫茶店へ彼女を誘った
楽器の話を交わしたその先のことは いまもなお 胸のどこかに断片のまま沈んでいる
初めて我が家のピアノレッスン室で デュオを組もうと約束を交わし……
彼女の豪奢な家では おそるおそる二人で音を合わせる真似事もした
私の友人Fのレンタルスタジオで録音を重ねてから
私たちは 少しずつ けれどたしかにクラシックの深みへとのめり込んでいった。
彼女はヒールを履くたび 「これであなたの唇とちょうど同じ高さね」といたずらっぽく笑った
淡い黄の薔薇を髪に挿してやったとき そこに宿った彼女の輝きは
花そのものの美しささえ静かに追い越していた
大きく丸いその目は 「来生えつこ」の歌詞に現れる娘のように どこか涼しく澄んでいた
軽やかに弾むその声は 耳にするたび いつも初めての季節の風のように新しかった。
美術館で 私が心惹かれた作品の前で足を止めていると
彼女はそっと私の横顔をのぞき込み その視線の先にある同じ作品へ静かに目を移し
まるで学芸員のようなひそやかな声で そっと感想を聞かせてくれる
「ねえ、どう思う」
そうして彼女は いつしか私の時間の奥深くに根を下ろし かけがえのない存在になっていった
ふいに 彼女が小さく寝返りを打った
やがてやさしい目をひらき そこにいる私を静かに見つめている
あかね――あなたのために生まれたこの曲を いま そっと捧げます