「空ちゃんの宇宙」
音楽 初岡葵衣
ポエトリー 蔓音ガオ
きいてくださってありがとうございます。
https://youtu.be/SLCQkPISm88空ちゃんは中学校へ上がる前の夏に死んだ。
だから空ちゃんは、いつまでも半袖のまま。
図書室の隅で古い宇宙図鑑を開き、土星の輪を指でなぞっては、「ここ、冷たいんだよ」と笑う。遊びも勉強も少しだけ遅くて、先生は困ったように笑い、クラスのみんなは少しだけ笑った。でも空ちゃんだけは、いつも人懐っこそうに目を細めた、眠るような笑顔を浮かべていた。
わたしは、その笑顔が少し苦手だった。
ある日、校庭でタンポポの綿毛を見上げながら、空ちゃんが言った。
「宇宙うさぎって知ってる?」
星から星へぴょんと軽やかに跳び、銀河と銀河のあいだを旅する白いうさぎ。いつか迎えに来てくれて、宇宙へ連れていってくれるのだという。
夏の夜、わたしたちは夜光虫を見に海へ行った。
波を踏むたび、足元で青い光が砕ける。海が星空を覚えてしまったみたいだった。
「宇宙へ行くときね。」
空ちゃんは波を見つめたまま言う。
「リュックに地球の宝物を入れるの。」
石や貝殻や雨の日の匂い。そんなものまで持っていくという。
帰り道、コンビニで買ったソーダ味の飴を一つあげた。
空ちゃんは両手で包むように受け取って、「これも宇宙に持っていく」と笑った。
そのとき、わたしは少しだけ怖くなった。
それからほどなくして、空ちゃんは死んだ。
大人になったわたしは、大学で学生に教えている。夕暮れの教室で窓を開けるたび、夏の匂いに混じって空ちゃんを思い出す。
あの夏の夜、宇宙うさぎは空ちゃんを迎えに来た。
空ちゃんは、自分の体より大きなリュックいっぱいに、石や貝殻や夜光虫の青い光や、夏の風や、地球のきれいなものを詰め込んだ。
最後に、小さな内ポケットへソーダ味の飴をしまう。
そして人懐っこそうに目を細めた、あの眠るような笑顔のまま、ベランダからぴょんと飛び上がった。
星から星へ。
宇宙は寒いから、あの飴はきっと、まだ溶けないまま。
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